大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)1965号 判決

被告人 田中昇司 外

〔抄 録〕

第二点について。

(1)本件記録を調査するに被告人田中昇司に対する所論起訴状の記載によれば同被告人が被告人吉沢、同小林(諠雄)に供与した金額は三万円と記載され、本件訴訟の過程においてこれを五万円と訴因の変更をした形跡は認められないこと、原判決が、右供与金額を五万円と認定していることは所論のとおりである。しかして現行刑事訴訟法における訴因制度の趣旨とするところは、これにより審判の対象を明確ならしめ、被告人をしてこれに対する防禦方法を尽さしめるにあるものと解せられるのであるから、本件のように訴因に明示された限度を著しく超えて被告人に不利益な事実を認定する場合にあつては原則として訴因変更の手続をなすべきものであつて、原審はこの点において訴訟手続に法令の違反があるものと認められるのであるが、本件記録に徴するに、右供与の事実に対応する被告人吉沢及び小林(諠雄)の受供与の事実については授受金額五万円として訴追がなされており、右金額は一旦三万円と変更されたが、その後再び五万円と変更されているのみならず(記録第九冊二三丁及び六五丁参照)又右と同日同所において同趣旨の下に坂口和夫に供与された金員についてはその授受共に五万円として起訴がされていることも記録上明白である。(記録第十二冊一丁第六冊一丁参照)故に被告人田中に対する前記起訴状の記載は本来五万円と記載されるか又は五万円と訴因の変更をせらるべきものであつたことを推認しうるのみならず、被告人田中においても右金員が五万円として起訴されたことを前提として種々防禦方法を講じていることが記録上認められるのである。(前記第一の一の論旨並びにこれに対する判断参照)故に原審が前記のように訴因変更の手続を経ないで五万円の供与を認定したとしてもこれを以て被告人に不意討に起訴事実よりも不利益な事実を認定したもの或は被告人から不当に防禦方法を講ずる機会を奪つたものとは認められないし、又原審がこれにより事実の認定を誤り、又は刑の量定に不当な影響を及ぼしたものとも認められないのであるから、右訴訟手続の違法は結局判決に影響を及ぼすことが明白な場合に該当するものと認めることはできない。故に論旨は結局理由がない。(一(2)の論旨は撤回されたので判断を与えない。)

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